大会長 伊藤 桂子(東邦大学)

 この度、日本「性とこころ」関連問題学会第13回学術研究大会の大会長を仰せつかり、誠に光栄に存じます。本学術研究大会は「性被害からの回復-どうやって立ち上がるかを語ろう‐」をテーマとし、被害者が「性とこころ」を揺るがす性暴力被害から、どのように立ち上がり、どのように回復を目指していくのかを語る機会としたいと考え、企画しました。

 2023年7月に性犯罪に関する刑法の規定が改正され、不同意性交等罪と名称が変更され、被害者が「同意しない意思を形成、表明、全う」することが難しい状態で性交等を行うことが罪に問われるようになりました。さらに、性的行為について自ら判断できるとみなされる「性交同意年齢」が13歳から16歳に引き上げられ、性暴力の抑止や被害者救済につながることが期待されています。

 過去の調査によれば、16歳から24歳の若年層のうち、4人に1人以上(26.4%)が何らかの性暴力被害に遭った経験がある(内閣府男女共同参画局, 2022)、被害に遭った人が被害を届け出なかった割合は80.0%である(法務省, 2019)とする報告があります。現状として、多くの人々が性暴力被害に遭遇しているにもかかわらず、それを訴えることができずにいることが明らかです。

 私がこれまでにお会いした依存症などの精神的な問題を抱えた方の中にも、過去に被害を受けられた経験をお持ちの方がいらっしゃいました。彼らは被害経験から回復する過程で、何かに依存しなければ生き残れなかったとも考えられ、性暴力が精神的な問題の発症に及ぼした影響は大きいと考えます。このように、多くの人が被害後に心身の不調を抱えながら、自分一人で耐えて日常生活を送っていることが想像されます。

 「回復」とは、それぞれの事象であり、どうなったら「回復」と言えるかには答えはありません。しかし、回復の手だてがあるということは当事者だけではなく、支援者にとっても希望となると考えます。そのために、回復を目指して取り組んでいる当事者や支援者、専門家を招いて、語る機会としていきます。

 ぜひ多くの皆様にご参加いただけますようお願い申し上げます。